「適当」の効果

私たちが療育をする際に、お母さんやお父さんに対して、

「別に完璧じゃなくても良いです、適当にしてください」

という事を良く言います。

適応行動を獲得させるために、

100%の強化(報酬など)をすることは確かに悪いことではありません。

私たちが療育の中でしなくてはならないことは、

実は「獲得」ではなくて「維持」の方であったりします。

せっかく獲得したものが、出て来なくなってしまう、消え去ってしまうというのは

出来るだけ避けなければいけないことなのです。

それには短期的な目(獲得)だけでなく、中、長期的な目(維持)に焦点を当てることが肝心です。

「維持」はイコール、「出来るだけ消去されない手続き」ということになります。

そして、完全に100%強化という手続きは「維持」という所に焦点を当てると、

実はあまり効率が良いものではありません。

「いつ強化されるか分からない」という手続きの方が、

「長持ち」し「消え去ることが難しい」という形になりやすいのです。

具体的な例を挙げると、「パチンコ」「競馬」などのギャンブルがそれにあたります。

「パチンコ」や「競馬」は、絶えず強化をされるものではありません。

5回の内1~2回、10回の内1~4回かはわかりませんが、

強化(この場合は「玉が出ること」や「馬券が当たること」)が時間的にランダムになると、

その形成された行動(パチンコに行って、玉を買って、玉を打つなど)を

消すことはなかなか出来にくくなります。

だから、ギャンブルにハマっている人は多く負けているにも関わらず

「今度は当たるかもしれない」と言って、

パチンコ屋や馬券売り場に駆け込む様になります。

(これは、「強化スケジュール」の中での「VIスケジュール」と言われているものです。)

賭け事をする人間を毛嫌いする人がいますが、

実は「ギャンブルにはまる」というのははその人固有の行動ではなく、

強化スケジュールに組み込んだ、組み込まれてしまったというだけであって、

誰にでも形成される当たり前の行動なのです。

翻って療育の場ですが、

適応行動に対して100%強化をしてあげると、

確かに「獲得」に対して十分な効果が得られるのですが、

「維持」の場面になると効率の面では「?」ということがあります。

そうではなく、

「60%ないしは70%での強化」となると、

100%の強化よりは「獲得」に関しての効率は負けますが、

「維持」という点に関しては、良い効果が得られます。

一旦獲得すると消去されにくくなるからです。

何にしても「日常」の中に導入がしやすくなります。

そしてそれだけではなく、実は「般化」という

「フリーオペラント法」または「療育」にとって最重要な行動にも繋がっていきます。

「そうは言ってもなかなか出来ないんですよ」と言うお母さんたちがいます。

勿論程度や状況にもよりますが、「なかなか出来ない」言っていると状態がベストな場合もあります。

加えて「何がなんでも頑張らなくちゃならない!」というお母さん、お父さんたちの負荷の軽減にも繋がります。

親の負担が大きく「バーンアウト(燃え尽き)」しがちな療育の場で、負荷が軽減されるということは

お母さん、お父さんたちの療育の「維持」にも繋がります。

スピードが大事な場合もあるのですが、何にしても「維持」というのは「獲得」と

同じ位大切なものなのです。

私たちの

「適当にしてくださいね」

と言うことばには、こういうカラクリがあったりするのです。

小野